
各社小説の新人賞はあるものの、あんまり「これは!」というものに当たらない。それはどうしても先物買いと、出版社も募集しといて賞を出さない訳にはいかない・それも新人賞となれば多少難が有っても許してくれるのでは的発想が見え隠れするのだが、お金を払う方は、面白くなきゃお金払いたくないですよね。
さて「盤上のアルファ」ですが、第五回小説現代長編新人賞なるものを受賞した作品になります。
どうでしょう、審査員満場一致で受賞した作品ですがね、将棋を舞台にした小説は、一時期かなり出ていたが、それも1900年代後半で近年記憶に無いそれを踏み込んで小説にした上、新人ではどうでしょう?と不安は募るものの、作者には力量よりも勢いと関西人のノリがある・・・ハンパなくある。
近年へたれた男(草食系とか言われているが)が多くなって、ヒーローものの様な果てしなくかっこいい男は、小説に登場しなくなってきた。リアル感を出して感情移入を図る場合、世相をうまく反映させてゆく事になる。当然主人公は、将棋しか能の無い将棋も人生もぎりぎりの男なのだ。左遷された同年代の新聞記者が絡む事で、苦悩や悲哀を対比という形で浮き彫りにしてゆく。
事の顛末としての感想は、中の上ぐらいの意外性で終わるのだが、清々しさと活力を貰える秀作です。お勧めです。
【2012.2】

なんだか最近つまんない!…そんなこと考えてるあなた…ここに、笑えるホラーあります!?
題名通り、幽霊詐欺師…まあ幽霊を騙して収入を得ている?(幽霊がお金持ってんのかよ!)
現実世界で騙され続け自殺しようとしていたミチヲ君は、ベテラン詐欺師カタリと偶然出会い(偶然では無さそうではあるが)スカウトされた、ミチヲ君の世にも哀れな物語という設定で騙す方に転身して行くのだが、あまりにもヘタレであるためどうにも可笑しさが込み上げてくる、秀逸した作品になってます。
一見破綻しそうなコメディになりそうではあるが幽霊描写もキレが良く、十分ホラーファンをも納得させる力量を見せ、その上、小笑、中笑、そして爆笑まで取ってしまう。
年始は、ホラーで笑ってみませんか?!
幽霊詐欺師ミチヲは、既に2巻も出ています。
【2012.1】

題名から察するに「別れさせ屋かな?」と思われる方も居るかも知れませんが、「強奪」の通り、奪って帰って来ない様にする事を目的としている訳ですね。
DV男、二股男、果ては監禁男…どうしようもない男から一生縁切り出来て、明日に向かって生きる勇気をくれる、「ヒナコにおまかせ」な一冊です。
短編集でテンポ良く読んでいけて、前の章で助けた依頼人が後章で助ける手伝いをしていたり、一つ一つは独立しているけど全体感がそこにあって、作者の技量を感じます。
女性はもちろん、男性が読んでもとっても楽しめますよ。 恋のトラブルはヒナコにおまかせ!!
【2011.11】

爆笑サスペンスという新しいジャンルを開拓した著者に拍手を贈りたい。
初期設定でおぼっちゃま・お嬢様刑事コンビに解決できる事件が有るとは思えないが、桁外れのお嬢様が刑事やってるのも?? がしかし、事件そのものの設定は、うまいし細かな設定もうならせてくれる。
主要人物のもう一人がお嬢様の執事影山だ。謎を秘めたこの執事、出来る、なかなか出来る!! 野球選手か私立探偵になりたかった執事という設定はかなり無理はあるが、お嬢様が抱える難事件を、話を聞いただけで解決してしまう頭脳明晰な毒舌執事なのである。 憚りなく「お嬢様は、アホでいらっしゃいますか」…おいおい執事だよな、このセリフ!?
まずは書店で手にとって、危険な執事に逢って下さい。
【2011.10】

「またも虐殺ものか」と期待している一部の方々に贈る、一級品のエンタメ作品をご紹介!
日本の創薬化学を専攻する大学院生「古賀」と、殺す事を職業にしている傭兵「イエーガー」。交わるはずの無い二人の人生が交錯する時、アメリカのエゴを巻き込み大事件へと発展してゆく…。
スケールが大きすぎて「この話ちゃんと終わるのかよ」と心配になるが、作者は江戸川乱歩賞を受賞しているほか、ドラマの演出を手掛ける事もあるほどで、プロットとバックボーンがしっかりとした作品になっています。 前回の直木賞候補にもなり(SFは受賞したこと無いんだよね?)関係者ウケはいいんだが…。
話を戻すと、アメリカは1977年に人類滅亡の仮説を立てていて、核戦争や新種のウィルスやら、そのレポートの5項目に新人類があり(過去の人には身につまされる…)、特権階級や帝国のエゴが絡む超法規な世界を舞台に物語が進むわけですが、「自分の都合の良いように法律や基準を変える」のを震災以降沢山見てきましたから、リアル感てんこ盛りです。
序盤からの、風呂敷の広げっぷりと見事なエピソードの回収。
最後までドキドキさせられ、読後の一筋の希望は、読み手の解釈次第。 今年一番の収穫です!
【2011.9】

題名から想像する通り、現行の法律を「おとぎ話の主人公」に適応すれば、量刑はどの位が妥当なのか?というお話。
監修者は弁護士でもあり、その辺はすっきりと解決してくれるのであろうが、それだけでは捻りが足りないということで、裁判員制度も始まっているが実際民事には出ては来ない一般市民の声みたいなものが、NHKのお昼の法律相談の様な雰囲気を出している。
かちかち山、金太郎、花咲かじいさんや、シンデレラ、白雪姫、はだかの王様など…海外の童話も国内法で裁くという荒技に出るのですが、そこは軽いツッコミで流して下さい。
王様が関わってくると法律なんてあってなきがごとくでは…?とも。
特に「天の羽衣は監禁罪になるのか?」「ハーメルンの笛吹きは誘拐罪に問えるのか?」などは、意外な結果にちょっと唖然としちゃいます。
【2011.9】

視点を変えた警察小説。数ある中でこれは「こっちから来るんだ」と唸る力作。
…容疑者もしくは被害者がペットを飼っていたら、拘束中は誰が面倒を看るのか?
―ある事件で大けがを負った、元捜査一課の警部補「須藤」は、愛護団体の手前作らざるを得なかった部署『動植物管理係』へと移動させられる。そこには変わった部下の「薄」が居るのだが、対象が犯人から動物に変わるともう警察官の威厳も権力も関係ない。
薄との掛け合い漫才のうちに物語は進み、なんと事件を解決へと導いてしまう・・・?
ちょうど読みやすい短編集で、ぜひともシリーズ化&ドラマ化なんて事になればと、かなりの皮算用で出版した、講談社さん三押し位の力作です。
ですが、面白い。東野圭吾の探偵ガリレオ並の衝撃作です。
【2011.7】

ここ最近の政府内閣を顧みると二世・三世議員のぼんぼん育ちが多く、期待するだけ無駄じゃない?そんな思いに駆られてしまう。こんな時こそこの本を読んでいただきたい。
本当の内閣は京都にある。日本の危機に立ち向かうために、日々政策を練っていたタイムリーな内容と意外な展開だが、実は、語る事は王道を行く。
各大臣の県民性の代表みたいな言動…久々に物語に突っ込み入れちゃいました。
ドカンドカンの爆笑・爆笑の嵐に巻き込まれるうちに、なんでこんなにジーンとくるんでしょう。あれこれ悩む事の多いこのご時世、全て物語に身も心も委ねてどっぷり浸かって読めちゃいます。作者の術中に嵌まって下さい。
そうか~、今の内閣は2軍なんだ、だから決断が遅いのか~!?と、現実逃避してみたくなるのは私だけでしょうか。
【2011.5.13】

雪も降り、毎日寒さに体が固まりそうですね。こんな季節に東北に居るならば、ゆっくり温泉につかって、きゅっと一杯行きたいところですね。
そんな今お勧めするのは『民宿雪国』。さあ、あなたも越後の国へ…表紙ものどかな雰囲気を出していますが、この作者曲者です。半端なく曲者です。
大器晩成のある画家の半生を、戦中戦後の昭和史にからめながら物語は進むのですが、いきなり血生臭い。とにかく、善人が出てこない「虚」と「実」、「真」と「偽」。読者をどんどん引き込んで翻弄してゆく筆力たるや圧倒的、中毒症状必至。その上、物語として最終的に成立してくれるのか、ドキドキ。
血に染められた半生は、虚飾と欺瞞に満ちた作られた表と、ルポタージュによる裏面により実像が浮き彫りにされてゆくが、しかし、それは幻なのでは・・・
生まれてから人が、いったいどれほどの業を隠し持って逝けるのか、ある意味真実なのではないだろうかと、背が寒くなります。
面白いですよ、おすすめです。
【2011.2.10】

いきなりパート2からの紹介は無いだろうとも思ったのですが、冲方丁先生の『天地明察』(涙を飲みながらも本屋大賞第二位で30万部を越えるヒット作)の様に知ってる方はご存じではとの前提で、見切り紹介に踏み切ってしまいます。
前作同様、地方地域医療の問題点を鋭く突く問題作で、作者自身が長野県で地域医療に携わって来た方でも有り、読み込む内にじわっと滲みて来るエピソードが 心を揺さぶってきます。漱石かぶれの物言い・主人公イチさん、可愛らしい奥方ハルさん、色濃い脇キャラが物語を季節感たっぷりに彩って行きます。医者とし てある前に人としてどう有るべきかをテーマにして、医療現場の隠れた実態を私に見せてくれました。
今作は、新たな登場人物を加えイチさんの学生時代のほろ苦い恋と友情を、効果的に織り込んできました。
作品のキーワードとして、『苦笑』と『コーヒー』…どちらもほろ苦いものでは有りますが様々なエピソードの中で、一つは何の打開策も無くそれでも現場は 待った無しで進んで行く、理想と現実とのギャップの大きさ、消耗戦の日々。もう一つは、愛妻ハルさんとのエピソードと、友情の証としてのアイテムになって 行きます。
ここまで書くと大変重い暗い物語の様ですがさにあらん、作者は更に力量を付け軽快に、そして粛々と物語を進めます。配役を櫻井翔と宮崎あおいで映画化も決まり、話題豊富な作品に成ってきました。前作をお読みで無い方も、是非お手に取ってみて下さい。
編集者が福島市出身で、長野と福島で売れ始めたという、妙な逸話のある作品でもあります。
『良心に恥じぬという事だけが、我々の確かな報酬だ』 この言葉と共に、奇跡を天の川の向こうに見て頂きたいです。
【2011.1.10】

まあ題名からすれば、苦境に立った男性に向けたHOW TO本みたいですが、内容はさにあらず読後にジーンと残る(読む方の今、持っている問題にもよるけど)、「やられた…そう来るのかよ!!」的小説になっています。
作者はTVドラマのシナリオライターをしているだけあって、半ば強引と思えるような書き出しで始まります。え~!っと思ううちに物語に引き込む所はうまい!!
まあ最初から主人公は轢かれるし付き纏われるし、通常悲観的にもなる状況を、元々脳内地図が女と金で占められていて、楽して金に成るんだったら捕まらない程度に何でもやる…そんな奴に同情すら覚えないでしょ的な序章から、あれよあれよと、感情移入していってしまう。
読む内に、あの女優さん、この男優さん…自分なりのキャストがどんどん浮かぶのも入り込みやすい理由だと思います。
さて、あなたはどのキャストで物語を彩りますか?
【2010.12.10】

映画にもなった(ボーンコレクター 1999年ユニバーサル)リンカーン・ライムシリーズの邦訳版最新作です。
ジェフリー・Dはこれでもかと難解な事件を、ライムにぶつけてくる訳です。すでにシリーズ8作目であり人気が解るはず。
このシリーズを初めて読む方のために幾らか解説をしますと、ライムは元ニューヨーク市警の鑑識官で、職務中の事故で感覚があり動かす事が出来るのは首から上と右手人差し指だけ、という状態になってしまいます。
その状態でどうやって事件を解決するのかは・・・
まあ、あんまり書きすぎると話がつまらなくなるので、シリーズ最初が映画になっていますので、レンタルして見てもらえれば解りやすいと思いますよ。デンゼル・ワシントン主演のとっても大好きな1本です。
あっさりと今回の事件を紹介すれば、ライムのいとこアーサーが、完璧な証拠で逮捕されてしまう事から始まります。あまりにも揃いすぎる証拠と、説明の付かない微細証拠。ライム自身は、別の事件も担当する中、いとこの事件を追ううちに真犯人の影が薄く見え始めてきます。
真犯人は自分の犯行をある情報を元に、まったくの他人に罪を押し付け自分は安全圏に居るという、とんでもない犯人です。
犯人を追うライム率いるチームにも、犯人はどんどん罠を仕掛けてきます。姿なき犯罪者、『全てを知る男』をどうやって追いつめるか…ちょっと書きすぎた。眠れなくなるな、これは!
複数の事件を縦糸にライムとアーサーの過去の関係、登場人物がそれぞれに悩み傷つく、生き生きとした描き方がジェフリー・Dの面白さでもあります。
余談ですが、来年ジェフリー・Dは、イアン・フレミング財団の依頼でかの有名なダブルオーセブン007の新作を発表する事が決まっており多分映画化もするのではないか、と思われます。ぜひ読んでみたい!
【2010.11.10】

発売前より文春内部でも今年一番の作品だろうとのゲバ情報垂れ流しのツイッターを出しまくり「悪の教典 上・下」。ちょっと乗ってみようかと読んだら最後止まらない。
こいつオカシイでしょ、俺もおかしいけど。主人公はハスミンこと蓮見聖司。私立高校の英語教師、同僚・生徒・PTAすこぶる評判の良い教師を演じきっている。
他者との共感能力の欠如により、物事の判断に殺人まで平気で加えるところは寒気を覚えるが、つい先日の「社会が悪いから」の大量殺人犯とは明らかな一線を画す。
理論的に考えた上での排除に、殺害という選択肢を用い且つ冷静に学校内に王国を作ろうとしている。
ただ、近くにこの様な教師がいた場合「こいつオカシイ」とは疑問さえ浮かぶ事は無いのでは無いか?
上巻は軽いジャブだったんだ・・・下巻はいっき読みです。
各巻400ページほどのボリュームですが、作者の力量でしょう、読んじゃいます。
サイコパスとはこんな奴なんだと納得の1冊になっています。
最後このままかな?みたいな香りがうれしいです。
【2010.10.10】

今話題の『永遠の0』の作者の最新作で、時代小説になっています。
戦国時代より太平の世になった、地方の小国が舞台傑出した才能を持ちながら、次男であるため家督を継げるはずもない磯貝彦四郎と刎頸の友の契りを交わした 志高い下流武家である名倉彰蔵とのまさに壮絶な友情の物語であるが、友情ならば現代での設定でも小説化出来るにもかかわらず、なぜ時代物にしなければなら なかったのか?しかしその時代の閉塞感は現代にも通ずる事もありリアルな実感もある話の流れになっている。
理不尽な掟やルールに縛られ、お家や家柄に人生を弄ばれる若者たち。友とは友情とは?生死を掛けた志とは?
いつか、NHKが大河ドラマにしたくなる(実在の人物が出てないから無理?)きっとオファーが来るはずの、間違いのない1冊です。
【2010.9.20】

虐殺と付く題名に背く事無く作品中多くの人々が、死にます。
虐殺ですから、惨たらしい死に方です、大人も子供も性別無く死にます、いや殺されます。
9.11以降のテロが日常化してしまった、近未来が作品の舞台であり、主人公も紛争地(虐殺の行われている現場)に、ミッションで行く兵士。
知らず知らずに、その国の指導者が、民衆が虐殺へと突き進むその虐殺器官とは?
もう一人の主人公ジョン・ポールの目的は?
ラストまで誰も信じられない展開に、息が詰まってきます。
ラスト、あなたなら、どちらを選択しますか?
作者は、2007年本作で作家デビューしそのまま2007ベストSFを受賞、長編2作目が第30回SF大賞、2009ベストSFを受賞するなど今後の活躍を各界が嘱望する中、2009年春肺がんのためこの世を去っています。
おしい、実におしい・・・合掌
【2010.9.1】

百田先生デビュー作、文庫化第一段です。
関西系放送作家としてキャリア豊富な方で、探偵ナイトスクープ等手がけた方です。
作品は、経歴からは想像できないミステリアスな序章から始まります。
孫が戦死をしたおじいちゃんを調べて行く事で徐々に明らかになってゆく人物像。
飛行機乗り、天才、そして臆病者…その頃を知る人々は様々な思い出を告げてゆく。
そこからおぼろげににじみ出てくる人物像が結実した時、さわやかな涙がほほをつたう事をあなたは止めることが出来ない。
愛情・家族・友情が戦争により翻弄され蔑まされ、口に出す事が憚られたが真実はそこに有った―。
幅広い世代の読者に、読んでもらいたい作品です。
【2010.7.31】